鍋パーティーのブログ

再分配の重視を求める「鍋パーティー」の共用ブログです。

三幸製菓工場火災を思い出せ

 三幸製菓工場火災を思い出せ。なぜ、今、そう訴えたいのか。それは、高齢者を、社会保障負担を増大させ、「現役世代」の手取りを減らし、経済を停滞させる存在として描くことで、世代間対立を煽り、社会保障削減につなげようとする新自由主義的な風潮が猛威を振るおうとしているからだ。その象徴が、先の衆院選での国民民主党(民民)の躍進と、それを受けての支持者たちの悪目立ちだ。選挙に先立ち、民民の党首玉木雄一郎は、社会保障費抑制の文脈で尊厳死を法制化する発言をし、物議を醸した。玉木は、どうせ、その「意図を否定」したのだろうが、そんなことは重要ではないので、調べようとも思わない。重要なのは、これを「勇気ある提言」と讃えるような層が、玉木支持を鮮明にしているということだ。選挙が終わり、民民と与党との政策協議が話題になるたび、私の観測範囲では…とはいえ、私はXはしていないが…彼らが吹き上がっている。しかるに、彼らが描き出す高齢者像は真実を捉えているのか。そして、彼らはそうした高齢者たち「お荷物」を背負って社会のために働き、喘いでいるのか。否! それを鮮明に示すのが、三幸製菓工場火災だ。今年2月の経営陣らの書類送検を報じる朝日の記事から登録なしで読める部分を引用する。

 

www.asahi.com

三幸製菓CEOら4人書類送検 7人死傷の工場火災で業過致死傷容疑
鈴木剛志2024年2月2日 15時04分

 

 新潟県村上市で2022年2月、米菓メーカー三幸製菓(新潟市)の荒川工場が全焼し従業員7人が死傷した火災で、県警は2日、佐藤元保CEO(最高経営責任者)ら同社幹部4人を業務上過失致死傷容疑で書類送検し、発表した。組織として安全管理が不十分だったことが重大な結果を招いたとみて、トップを含む幹部の刑事責任を問う必要があると判断した。4人の認否は明らかにしていない。

 書類送検されたのはほかに、当時の製造本部長と生産統括部統括部長、荒川工場統括工場長。

 火災は22年2月11日午後11時35分ごろ発生。社員の渡部祐也さん(当時22)と田中雄大さん(同23)、パート清掃員の渡辺芳子さん(同71)、伊藤美代子さん(同68)、近(こん)ハチヱさん(同73)、斎藤慶子さん(同70)が死亡し、女性社員が一酸化炭素中毒により負傷した。

 火災を受けて同社が設けた有識者委員会や総務省消防庁の調査報告によると、点火された焼き窯の熱で上部に設置された乾燥機が熱せられ、底にたまったせんべいのかすが過熱して発火。天井の断熱材の発泡ウレタンに引火した。火の回りが早かったうえ、夜間に停電も起きていたところに、有毒ガスを含む黒煙が大量に発生したという。

 荒川工場では避難訓練が十分行われず、非常口や防火シャッターに関する周知もされていなかった。また、19年までの30年余りの間に、今回と同様にせんべいなどの菓子のかすが出火元になった火災が8回起きていたという。

 捜査1課によると、佐藤CEOらは、過去の火災から乾燥機の清掃を徹底しなければ出火する可能性を予見できたのに指示を怠ったうえ、火災発生時の早期発見や避難などに向けた指導も不十分だった疑いがある。

 書類送検を受け、亡くなった伊藤さんの長男(46)は取材に「母を失ってから2年待った。佐藤CEOたちは罪をしっかり受け止めて反省してほしい」と話し、同社に対し「不信感が残り続けている。従業員を大事にできる会社になるよう体制をしっかりしてもらいたい」と求めた。

 同社は1962年設立。全国に営業所があり、「雪の宿」や「チーズアーモンド」、「ぱりんこ」などの商品が知られる。火災後に全3工場で停止した生産を7カ月後までに順次再開している。

 

 記事にあるとおり、この火災では20代の若い男性社員だけでなく、4人もの70歳前後の女性が犠牲になっている。高齢にもかかわらず、12時前という深夜に、多くの人が普段、普通に食べているお菓子を製造していて! いっぽう、経営陣は度重なる火災にも対策を取らず、果たすべき責務を怠ってきた。しかるに、彼らのその報酬たるや、途方もない差があるであろうことは容易に想像できる。これが「社会のお荷物」と「社会のために頑張っても手取りを奪われるかわいそうなお金持ち」か。そんな物言いに猛烈に腹が立つ。しかし、これが資本主義というものだ。そして、福祉国家という資本主義への修正が示された後に、それを放棄し、人類の歩みを逆戻りさせようとする新自由主義というものだ。もちろん、これは極端な例ではあるが、しかし、このように、むきだしの資本主義においては、社会貢献と報酬とに何ら関係ないことなど自明だ。その代表例が、この火災の犠牲者たちも含む、エッセンシャルワーカーの報酬だ。対して「お金持ち」たちは、資本主義において、人びとが協力して維持している社会から、過分に恩恵を受けている者たちだ。ならば、恩恵に見合った負担をしろ。再分配強化に同意しろ。それは、応能負担ですらない。応益負担だ。「社会のために頑張っているのに奪われる」という考え方には、このコペルニクス的転換が求められる。もちろん、再分配強化が応益負担であることこそ、真理だ。

 

 説明は省略するが、エッセンシャルワーカーの低報酬や、社会保障の切り捨て、格差の拡大が、社会の崩壊を招いているということにも触れておきたい。過疎地…というよりもはや廃村地と言った方が適当ではないか…の拡大や、少子化、医療・介護の危機、教育・保育の危機、そして最近目立つようになった闇バイトなどの治安の問題も、すべてこれらにその原因があると言ってよい。新自由主義は、国を滅ぼしている。

 

 最後に、先週、私の住む山口県で報じられた交通事故の記事を紹介したい。

www.yomiuri.co.jp

90歳運転の乗用車、歩道に乗り上げ68歳女性はね死亡させる…過失運転致傷容疑で現行犯逮捕
2024/11/09 12:26

 

 7日午後2時15分頃、山口県周防大島町東安下庄の県道で、歩道を歩いていた近くの清掃員の女性(68)が乗用車にはねられた。女性は病院に搬送されたが、多発外傷で死亡した。県警柳井署は車を運転していた同町の容疑者(90)を自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕し、その後釈放した。容疑を認めているという。

 発表では、現場は片側1車線の緩やかな下りのカーブで、車が歩道に乗り上げた。同署は容疑を同法違反(過失運転致死)に切り替えて任意で調べる方針。

 

 周防大島は、2018年10月に、貨物船の衝突により島と本州を唯一の橋である大島大橋が破損し、交通遮断や長期の断水に見舞われたことで話題になった、瀬戸内海に浮かぶ山口県最大の島だ。島全体を町域とする周防大島町平成の大合併で合併された町の一つ、東和町は、かつて、高齢化日本一の町として、よく話題に上った町だ。この事故は、その隣町である旧安下庄町で起きたものだが、もちろん、現周防大島町全体も、極めて高齢化率が高い。そんな町で、最近よくある高齢者が加害者でも被害者でもある交通事故が起きた。そして、その被害者の女性は、清掃員という、高齢女性によくある職業だった。やるせない事故ではあるが、特別な事故ではない…しかし、新自由主義的な風潮が猛威を振るおうとするなかで、やはり、考えさせられる出来事だと思う。