鍋パーティーのブログ

再分配の重視を求める「鍋パーティー」の共用ブログです。

岸田は分配重視と言ったことはあっても、再分配重視と言ったことはないよ。そして、この「分配」の主語は、政府ではなく、企業だよ。そして、結局、岸田の経済政策は「自己責任」強化、逆再分配強化だよ。

(この記事は、10月23日に自ブログに書き、その後加筆修正したものを転記したものになります。)

 

 タイトルのとおりである。これらは、はてなブックマークや他所様のコメント欄などで、これまで何度も書いてきたことだが、今日、テレビから流れてきた臨時国会の岸田の所信表明演説を聞いて、これはやはり、一度自分のブログにまとまったものとして書き残すべきだと思い、久しぶりに記事を書くことにした。物価高による国民の不満の高まり、内閣支持率の急落、昨日の2つの衆参補選での惨敗と苦戦と、岸田は求心力を失ってきており、その回復のためには、国民の窮状に対応した政策の提示や、これまでの自民党政治の反省など、新しいメッセージの発信が求められている状況にある。にも関わらず、テレビから聞こえてきた岸田のメッセージは、これまでと何ら変わりないもの、いや、というより、その本質をよりグロテスクにむき出しにしたようなものだった。NHK NEWS WEB より一部引用する。

 

www3.nhk.or.jp

岸田首相 衆参両院の本会議で所信表明演説 


臨時国会の召集を受け、岸田総理大臣は23日、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。

 

冒頭、岸田総理大臣は、防衛力強化や少子化対策など時代の変化に応じた課題に取り組み、結果を出してきたとしたうえで「今後も物価高をはじめ国民が直面する課題に『先送りせず、必ず答えを出す』との不撓不屈の覚悟をもって取り組んでいく」と述べました。

 

そして「30年来続いてきた『コストカット経済』からの変化が起こりつつある。この変化の流れをつかみ取るために『経済、経済、経済』、何よりも経済に重点を置いていく」と述べました。

 

そのうえで、近く策定する新たな経済対策について、変革を力強く進める「供給力の強化」と、物価高を乗り越えるための「国民への還元」を両輪とした内容にする方針を示しました。

 

このうち「供給力の強化」では、今後3年程度を「変革期間」と位置づけ、◇半導体や脱炭素などの先端分野への大型投資を促進するとともに、◇賃上げや設備投資に取り組む企業への減税を進めると説明しました。

 

また、◇供給の要である労働力の拡大を念頭に、いわゆる「106万円の壁」を解消するために必要な予算を確保する考えも示しました。

 

そして「国民への還元」では、急激な物価高に賃上げが追いつかない現状を踏まえ、負担を緩和するための一時的な措置として、税収の増加分の一部を国民に還元すると強調し、所得税の減税を念頭に「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会での早急な検討を指示する」と述べました。

 

また、◇各自治体で低所得者世帯への給付措置などに使われている「重点支援地方交付金」を拡大することや、◇ガソリン価格を抑える補助金や電気・ガス料金の負担軽減措置を来年春まで継続する方針も示しました。

 

さらに今後の経済財政運営について、所得の増加を先行させ、税負担や社会保障負担を抑制することに重きを置く考えを示しました。

 

一方、人口減少などの社会の変化にも対応していく必要があるとして、◇アナログを前提とした行財政の仕組みを改革する「デジタル行財政改革」を推進するとともに、◇マイナンバー制度の信頼回復に向けて、原則、来月末をめどに総点検を終えると説明しました。

 

また、◇地域交通の担い手不足などに対応するため、一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」の課題にも取り組む方針を明らかにしました。

 

このほか、女性や若者、高齢者の力を引き出すため、◇子ども1人当たりの支援規模をOECD経済協力開発機構のトップの水準に引き上げるのに加え、◇介護職などの賃上げに向けた公定価格の見直しや、◇認知症対策などにも力を入れる考えを示しました。

 

 岸田の経済政策の本質は、何よりまず、供給重視、つまり、企業重視ということにある。それを、意図せずも、端的に表しているのが、岸田が決め台詞のように繰り出した、「30年来続いてきた『コストカット経済』からの変化が起こりつつある。この変化の流れをつかみ取るために『経済、経済、経済』、何よりも経済に重点を置いていく」という言葉だ。そう、30年間自民が執拗に推進してきたコストカット経済こそ、日本経済没落の元凶だ。そして、それを改めなければ、自民のお仲間さえ、日本もろとも没落するという状況にまでついにきたといったところだろう。そこで繰り出された言葉が、「経済、経済、経済」。他に言う言葉がないのか。ないのだ。自民の政策には、それでも、労働者や生活者はなく、もちろん、困窮者も決してなく、自民にとって経済と同義の、企業しかないのだ。その証拠に、それにすぐに続く言葉が「供給力の強化」だ。そして、その「供給力の強化」の内容とは、「半導体や脱炭素などの先端分野への大型投資を促進」(=相も変らぬ「選択と集中」による一部企業の優遇)と、「賃上げや設備投資に取り組む企業への減税」(=賃上げや経済を名目にした優良企業への逆再分配)なのだ。

 

 賃上げ減税なるものが逆再分配だということに説明は必要だろうか。いちおうしておくと、経営体力のある企業は賃上げにメリットがあればするだろうし、ない企業はしたくてもできないだろう。つまり、これは強い企業への減税なのだ。そして、お金に色はないので、その減税分の税収減は、当然、社会保障等、他の財政支出を圧迫する。いわば、国民全体から集めた税の一部を強い企業に与えるようなもので、労働者重視政策の皮を被った逆再分配政策といってよいものなのだ。

 

 この所信表明演説にはないが、岸田が早くに打ち出した「リスキリング」も同様だ。現在の「人手不足」は、ひとえに雇用条件が悪いことによるものである。そして、人手不足とは、労働者の立場から見れば、労働市場が売り手市場になり、雇用条件が改善する局面になるということである。ここで「リスキリング」とは、政府の金で無理やりに労働市場に新しい参入者を増やし、売り手市場の状況を弱め、労働者の苛烈な搾取に基づく経営を、企業に維持させようというものといえる。これもまた、労働者重視政策の皮を被った逆再分配政策といってよいものなのだ。

 

 そして、「賃上げ減税」にしても「リスキリング」にしても、あくまでも、岸田の重視する「分配」は、企業を通してされるものなのだ。ときおり、「岸田の再分配重視は口だけ」といった言葉を目にすることがあるが、そもそも岸田の「分配」とはこのように、企業から労働の対価として当然に与えられる賃金でしかなく、いや、それどころか、このように、ここまできて、まだ、企業が自らの懐を痛めずに済むようにしてやることが真の目的のものでしかないのだ。それは、決して、勝ち負けゲームをその本質とする、資本主義による偏った分配を是正するために、政府が行う、「再分配」ではないのだ。それは岸田も百も承知で、腹の中では断固再分配拒否なのだろう。よって、そもそも岸田が「再分配重視」と言ったことなどないのだ。少なくとも、私は、これまでそれを見聞きしたことはない。

 

 あと、「供給力強化」の具体策の3つ目にあげられている、いわゆる「106万円の壁」の解消も、その是非はともかくとして、この岸田の方向性に完全に沿ったものであるし、地域交通の担い手不足などに対応するために導入を進めるとしている「ライドシェア」も、根本問題である雇用条件の改善をなおざりにするものである。

 

 ただし、「介護職などの賃上げに向けた公定価格の見直し」だけは、それらと方向性を異にするものだろう。その具体化を注視していきたい。もちろん、あまり期待はできないが。また、「子ども1人当たりの支援規模をOECD経済協力開発機構のトップの水準に引き上げる」というのも、ふつうに読めば、岸田の他の経済政策と方向性を異にするものなのだが、近年の自民(とくに安倍菅)による中抜き政策の実績を踏まえれば、穿った見方こそ持つべき視点で、やはりその具体化を注視していかなければならないものだ。

 

 タイトルの、結局、岸田の経済政策は「自己責任」強化、というのは、岸田の「分配」重視というのは、ようは、働かざる者食うべからずの「自己責任」論であるということと、今回の所信表明演説にはないが、岸田の看板政策である、「資産所得倍増」を踏まえてのものだ。NISA拡充に代表される「資産所得倍増」が、「自己責任」論に基づくものであるということは、説明不要だろう。あわせて、この「資産所得倍増」には、弱小投資家を糧に、富裕層の投資をさらに安寧にしようとする狙いもあると私は睨んでいる。投資こそ、力がすべての世界であり、巨視的に見れば、弱小投資家が富裕層の糧となるのは自明である。ゆえに、力のない者が投資に身がすくむのは当然なのだが、それを政府が積極的に後押ししようとする。そして、それが成功すれば、富裕層は、投資のリスクを弱小投資家へと分散することもできる。弱小投資家こそリスクの高い投資に、それと気づかずに誘導されやすいだろうし、バブルが弾けた時に、「自己責任」として片づけられやすいだろう。よって、これも、弱い者を強い者の糧にするための逆再分配政策でもある。もちろん、そもそも金融所得への分離課税やNISA拡充などは、それ自体逆再分配政策であるが。

 

 もし、投資がそんなにバラ色で、自民政府の政策が「自己責任」論にも逆再分配にも立つものではないというのなら、政府が投資をし、運用益を広く国民に還元して、国民の生活を安定させればよいではないか。いや、それ、公的社会保険ですけど、という突っ込みが入るだろう。そのとおりだ。しかるに、自民政府はその公的社会保険による保障を切り崩しつつ、2001年に「自己責任」型の「日本版401k」なるものを導入したり、今は岸田が、「自らの投資で生活の安定を」と呼びかけたりしている。やはり、公から「自己責任」へ、そして逆再分配強化こそが、岸田の経済政策の本質なのだ。もちろん、それは、岸田の属する自民の経済政策の本質でもある。そして、自民に属する者にその例外はいないというのも、もう十分に歴史が証明しているだろう。

 

 岸田が新たな経済対策の「供給力の強化」と並ぶ両輪の一つとして打ち出した「国民への還元」については、そもそも、そのような一時的な対策を、あたかも政府からの恩恵であるかのようにするのではなく、再分配強化を柱とする税制改革と、社会保障の拡充とを行い、財政のビルト・イン・スタビライザー機能を回復しろということこそ、言わなければならない。また、税制や社会保障制度を物価変動に対応できるものにしろということも、言わなければならないだろう。しかし、それを再分配断固拒否の自民政府に期待できるはずもないことは、言うまでもない。現に、岸田は、「所得の増加を先行させ、税負担や社会保障負担を抑制することに重きを置く」考えを示している。そして、もちろん、それらが整備されないからには、期限付きの対策が必要ではある。つまり、この「国民への還元」という言葉は、自民政府が意図的に欠陥のある制度設計をしたがゆえに対策が必要となったことを、まるで自民政府の政策が成功したから国民に恩恵を与えることができるかのように装おうとする、詐欺的な言葉なのだ。