相互扶助のEconomicsーもう一つのグローバリズム
「正直、このぐらいの金額はある。退職金を含めればこれぐらいになる」
どこかでお話ししたかもしれないですが、私は労働組合の専従書記、役員として一貫して共済とろうきん推進委員として10年以上勤めてきました。様々な変遷を得て、現在は後輩にその道を託していますが、先輩として彼女が迷うことがあれば手伝っています。ろうきんも「全労済」も昔とはかなり変わり、新しい事を覚えるのは骨ですが楽しくやっています。さて冒頭のセリフは私の会社の先輩のものです。地元ではそれなりに有名な企業ですが、グループ子会社で総合職でもなく年齢はそろそろ定年。先輩はろうきんで財形を18歳からはじめ月に5万円、さらにボーナスの大半も財形に回し政府が老後に必要だと言われている資金を優に超えた金額を貯めました。退職金を入れるとさらに増えるし、当然彼は65歳まで働く予定なのでまた状況が変わるかもしれません。それでも不安を吐露していました。家はお兄さんに譲り、自分はアパートに住んでいます。「金さえあれば、どこか施設があるはずだ」という事をよく言います。そういう未来であってほしいという願いも込めているようにも思えました。人間はその生き方に対し、間違いはあっても、正解はありません。自分の選んだ道がベターである事を信じて生きていくというのも、将来を考えれば不安に思う気持ちは私もよく知っています。何があるのかわからない?その不安のはけ口が今、何にも罪がない人に向けられていると強く感じています。
まだ労働組合というものが存在していない17世紀にイギリスで「友愛組合」として相互扶助を目的とした共済組合が誕生しました。日本では江戸時代に鉱山で働く鉱夫たちが「友子制度」という相互扶助の制度がありました。石見銀山が著名ですが、当時の鉱夫も一つのミスが大怪我に繋がりかねない危険な職場で、動けなくなった人に米、味噌、薬を支給され、子供には養育米が送られる。こうした事は昭和40年代まで続いていた事は法政大学の村串仁三郎名誉教授の記録映画「友子儀式 北海道夕張市真谷地炭鉱楓坑」などで確認できます。*1
1957年に全労済が誕生し、当時の自民党政権は民業圧迫の名のもとに共済事業そのものを規制する方向もあり、その都度ロビイング活動を行ってきました。こうした活動は全労済よりも農協の全共連の方が矢面に立ってきましたが、当時はいわゆる「族議員」と言われる人達を自民党は多く抱え協調主義的な審議会を経て、共済事業と保険会社双方が共存できる体制を築いてきました。ただ社会の変化も手伝って、既存のシステムをそのまま続ける事すら難しくなっています。しかし温故知新という言葉もあります。何を変えて、何を守らないといけないのか?私達は問われています。現在、自民党から日本共産党まで新自由主義の影響を受けていない勢力はありません。過去、労働組合には多数の質問が寄せられ、私も短い間ですが、労働相談員を経験した事もあります。21世紀もすでに四半世紀を過ぎようとしています。「新しい社会主義の相談員」として、質問に回答していきたいです。*2
2025年、某月某日某所にて
Q、連帯経済とは一体何ですか?
A、比較的最近できた用語です。私もいつの時代だったか、「連帯経済」という語句を使い始めたきっかけはよく覚えていません。最新の国際労働運動は常に先の先をいくものですが、そうした言葉が私に伝わるまで時間がかかったはずです。家にある広辞苑にも連帯経済という語句は掲載されていないので、ここは仕方がないのでWikipediaから参照します。「社会連帯を基盤とする経済活動の総称である。」と書かれています。
Q、連帯経済とは「大きな政府」ですか?
A、「大きな政府」よりも「大きな社会」とでも表現しましょうか?かつての福祉国家路線をそのまま現代でも通用するか?と問われると難しい局面もあります。福祉国家の概念にさらに「相互性」を持たせる事で、国家による画一的福祉から、きめ細やかな地域共同体福祉へ。国家の役割はそうした地域福祉を滞りなく行われるようにその機能を改革し、誰もが社会の構成員として活動できる場を提供する事が主になるでしょう。
A、環境政策は働く人にとって、環境政策は思わぬ規制を受けるものとして労働組合では評判が悪い事もあり、そういう主張をする人がいる事を否定しません。ただ一つ事例を挙げるなら、赤潮の被害を受けていた宮城県気仙沼市の牡蠣養殖業の畠山重篤さんはフランスでロワール川河口の牡蠣を見て、一目で品質の良さを確信。この地域の牡蠣はウナギの稚魚を餌にしていました。自分の子供の頃、三陸でも川でウナギは取れていたのに、そう言えば最近ほとんど耳にしていない。調査したところ気仙沼湾ではなく、付近の河口が都市化による水質汚濁で極めて生物が住みにくい河川になっている。大学の先生に尋ねたところ海の汚染は森林にあった事に気がつきました。畠山さんはその後植林活動を始めて、漁師でありながら国連に「森の英雄」という称号を送られました。*3
私達が持続的に仕事を続けるには環境問題は、直近の課題でありそれは国際的な連帯で行われないといけない。だからこそ国際主義の労働組合ができる事は、非常に多くのことが達成できるでしょう。
Q、労働組合は政治に関わらないで、労働運動に邁進すべきでは?
A、本来頑固に抵抗すべき雇用に関わる労使交渉を蔑ろにして、政治武勇伝を語る組合役員がいたら私は批判しますし、大会で最大限役員解任に向けた努力を惜しまないでしょう。しかし雇用を守るため、私たちは政治と無関係ではいられないです。そして行政の陳情だけでは、世の中を変えるにはまだ足りない部分もあります。私達は政治参加を通して自分の雇用だけでなく、自分がいかに生きるか「政治に期待する」という時代はもう終わっています。これからは「政治に参加し、私1人だけでなく全員で未来も変えていく」という新時代が始まっています。労働組合は政治に近いポジションにもいるので、組合活動も貴方の未来を変える行動になります。そういう期待に恥じない運動をしていきたいです。
Q、自分はそういった「しがらみ」は苦手
A、人間誰しも、コミュニケーションを取ることの難しい苦手の人はいて、できるだけそういう人とは距離を取りたいし、そういう機会が多くなる活動は極力避けたいのもまた人間のサガだと存じます。ただ自由を求める事も私は非常に重要ですが、「連帯」という概念にも今後は目を向けてほしいと考えます。戦後の焼け野原から類稀なる経済成長を遂げ、現在でも世界でトップクラスの経済力を誇る日本という国ですが、その代償として社会そのものは現在2025年、貧困になりました。弱者を侮りながら自分は更なる経済優遇を求める人が素晴らしい人でしょうか?そういう人も現在の資本主義の中で短い間と言えど「稼げて」しまう現実があります。当然人間ですから良い時も悪い時もあるのに、稼げる自分が1番偉いのだという風潮があります。こうした状況を一変するために再分配を求める集団、組織は必要です。
Q、「福祉国家」を目指すだけではダメなのか?
A、社会民主主義にしても、連帯経済を目指す社会は「福祉国家の建設」にあります。従来の社会民主主義をアップデートさせ、相互性を持つ経済へ。これが新しい左派の経済運動になると考えます。従来の福祉国家論は富の再分配を掲げたところは優れていますが、一部新自由主義者に都合よく方便にされている現在もあります。全員が社会の構成員たる資格を持ち、全員が参加、運動をしていく事で「富の再分配」を再定義する必要があります。こうした連帯経済で非常に先進的な活動をしているのはブラジルです。ブラジルをはじめとした中南米では極右政権もまた登場しますが、いわゆる「ダボス会議」に対抗する勢力がある事をご存知でしょうか?
Q、知らないです。どういうものでしょうか?
先ほどの質問にお答えしたように、こうした相互扶助を元にした「社会連帯経済」の先進国とも言える国はラテンアメリカに集中しています。このグローバルサウス発の運動がヨーロッパに広がり、最近はアジア、アフリカと言った国々でも徐々に広がっています。具体的な事柄を一緒に見ていきましょう。
☆連帯経済の実践 ブラジル ポルトアレグレ市を事例として
「陽気な港」ブラジルのリオグランデ・ド・スル州の州都であるポルトアレグレ市は日本語でそういう意味です。ブラジル南部最大級の都市であり、石川県金沢市と姉妹都市の関係です。かつて日本でもよく知られたサッカー選手であるロナウド・デ・アシス・モレイラ、日本の報道では「ロナウジーニョ」との愛称がよく知られた人でしたが、覚えていらっしゃる方も多いと思われます。
1980年から90年、軍事独裁政権から議会制民主主義に移行したブラジルは国営資本を次々と民営化する新自由主義政策を推進しました。特に著名なのは当時右傾化し現在でも保守政党となったブラジル社会民主党(名前は社会民主党ですが、完全なる右派勢力です)フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ政権で資源開発企業だったリオドセ社(現在ではヴァーレ社として名称変更)の民営化など数々の改革を断行しました。こうした改革は企業活動にとってはプラスでしたが、一部の人間だけが富を独占し民営化によって雇用を失った労働者も急速に増加。カンデラリア教会虐殺事件*4と言った社会不安を背景とした大変痛ましい出来事も起こりました。多くの工場が閉鎖され、行き場を無くした労働者たち。しかし彼らは排外主義に逃げる事なく閉鎖した廃工場を元従業員達が協同組合という形で経営権を獲得し実際に再建してみせた事例があります。こうした会社を「回復工場」「回復企業」といい、労働者も団結して経営を行えば決して事業を潰すことなく運営できるという証明をしてくれました。*5
実は日本国内でも親会社が経営から撤退しながら従業員が自主的に警察が排除するまで運営し続けた東京都品川区の京浜ホテルの事例がありますが、今回は誠に勝手ながら割愛させていただきます。また発信できる機会があれば是非。*6
さてこうしたブラジルの社会を一変させたのはルイス・イナシオ・ダ・シルヴァ、日本では報道でルラ、またはルーラ大統領と呼ばれる人が代表の独自社会主義政策を取る「ブラジル労働者党」への政権交代でした。労働者党政権が目につけたのは、すでにポルトアレグレ市で始まっていた「市民参加型予算」でした。住民の要望が公共事業の優先順位と予算を決め、議会に提出する。そして実行される事業は実際に貧困地域のインフラを改善していった。こうした優れた取り組みを全土に広げていったのはブラジル労働者党政権でした。こうした取り組みはブラジル一国に留まらず、多くの国で参考にされ実践されてきました。*7
この「連帯経済自治」の聖地であるポルトアレグレ市で2001年「世界経済フォーラム(ダボス会議)」に対抗する形で「世界社会フォーラム」が開催されました。合言葉は「もう一つの世界は可能だ」。残念ながら現在ではこのもう一つの国際経済運動はやや低調になっていますが、私達の手で未来が決定する運動があり、その近道は労働組合運動であったり、協同組合運動であったり、またはNPOや市民団体であったり、生協や共済運動であったりと随分広がっております。多国籍企業によるグローバリズムではなく市民が社会を築き上げそれが相互交流する事で経済基盤自体が連帯していく。もう一つのグローバリズムは市民が主役です。皆様が参加できる運動は必ず存在し、行政を変え未来を創造できる。だからこそ私は社会運動を、そしてたまたま間近にあったのが労働組合であったので長く続ける事になりました。こうした幸運を大事にし、行政を是非政治家だけのものにせず私達も運動を通して参加できる未来があれば、なお励みになります。こうした社会像ある人が増え、お力を貸してくれたら運動はさらに強固なものになると確信しています。*8
むすびにかえて 2025年7月
ハーバード大学の哲学者マイケル•サンデル教授はよくNBAで例え話をしますが、日本の分かりやすい事例で例えると現在のメジャーリーガー大谷翔平の活躍と戦後すぐにプロ野球界で活躍した大下弘、川上哲治といった選手は選手時代に得た年俸に非常に大きな差があります。大谷選手の努力や技術は優れたものです。だからこその破格の高年俸なのでしょう。ただそれは大下選手が大谷選手よりも努力を怠ったから、これだけの差になったのでしょうか?大下選手の素質は大谷選手の何千万分の一なのでしょうか?これが違うことは明白です。プロ野球という興行を多くの人が支え続け、トップ野球選手にそれだけ市場的価値がついた関連する全員が不断の努力をした結果であり大谷選手もその恩恵を受けて現在があるということが言えます。また野球が盛んの国であり、練習する環境が他国に比べて非常に充実していた事も現在活躍する選手は皆がそうした公共財の支援を受けて一流のアスリートに成長する事ができました。不世出のベースボールプレイヤーなのは誰もが認める大谷選手なのだからそうした思いを持っている事を信じたいです。
私は「グローバル•スタンダード」という言葉は、今まで批判していきました。これは多国籍企業が利益を上げるためだけに使った方便に過ぎず、様々な国で雇用を含む地場産業を破壊し、市民の税金で作られた公共財を利用するだけ利用し、自らは外資であるという喧伝し課税について逃げ回り、環境問題に深刻なダメージを与え続けるグローバリズムなら百害あって一利も一理もなし。私のnoteでは、こうした多国籍企業の横暴、特にAmazonを例にして厳しく追及する記事があります。お暇でしたらぜひ。
こうした「グローバル•スタンダード」を容認する立場から見れば、私は反グローバリストでしょう。ですが一部の政党のような他人の人権を軽視する反グローバリストではありません。「世界社会フォーラム」から始まったもう一つのグローバリズムの選択肢は増えています。連帯経済を世界に広げる国際組織にはGSEF(グローバル社会的経済協議体)という団体があり、定期的にあらゆる世界の都市で国際会議が開かれています。民間セクターでも公共セクターにもよらない協同組合やNPO団体による新しい社会経済セクターによる活動は、この地球に住む全ての市民の交流を経てさらに発展する事が期待されます。多国籍企業ではなく、市民を基盤とする協同組合や市民団体が手を取り合い、時には知見を出し合い共存共栄を図る事。相互扶助を目的とする団体なら容易に国境を越える事ができるでしょう。こうした運動であれば、私はもう一つのグローバリズムに賛成どころか推進する1人となります。最後に2013年にGSEFでソウル大会で出された「ソウル宣言」のリンクを載せ、この文章を〆たいと思います。ご清聴ありがとうございました。
社会的連帯経済を推進する会HPより「ー新たな協働の発見ー ソウル宣言」2013年11月 GSEFソウル大会
ーhttps://www.ssejapan.org/seoul-declaration
•注意 誤字脱字があれば修正します。
*1:働く文化ネットよりーhttps://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20151027/1445924669
*2:日本労働組合総連合会では連帯経済について重い腰を上げつつあります。今後私たちの活動を注視と叱咤激励してくださると嬉しいです。北村裕司「「つながる経済」で社会を変える!中央労福協SSE連続講座の振り返りと今後の課題ーhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/zrswelfare/15/0/15_19/_pdf/-char/en
*3:自治労講演「森は海の恋人」よりーhttps://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_yamagata28/jichiken_hokoku/shoku02/shoku02.htm
*4:1993年に起こった警官隊のストリートチルドレン8人を射殺した事件
*5:廣田裕之 ブラジルの連帯経済 その1ーhttps://shukousha.com/column/hirota/3544/
*6:朝日新聞 京品ホテルに強制執行 3カ月の自主営業終わるーhttp://www.asahi.com/special/08016/TKY200901250110.html
*7:TOKYO MX 「市民参加型予算」は日本に広がる?…市民の声が届く一方で課題もーhttps://s.mxtv.jp/tokyomxplus/mx/article/202209290650/detail/
*8:世界社会フォーラムの日本での活動は旧総評系労組グループの平和フォーラムが協力した事もありましたーhttp://www.peace-forum.com/tag/%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0